仮に、深津祐里と白石凌がターゲットで、二人の発情を試すために頓服の抑制剤が盗まれたのだとしたら。二人をかくれんぼサークルに勧誘するための確認だったのかもしれない。
フェロモンに左右されないnormalでWOに慣れている真野祥太が近くにいて助け舟を出したのは、かくれんぼサークルからしたら迷惑な偶然だったろう。
(出会いが目的のWOお見合いサークルで、感度が良いonlyを勧誘するなら、セフレ探しが主になるのかな。有体にいえば性交メインのサークルかもしれない)
とはいえ、今の時点では真野の言葉だけを繋ぎ合わせただけの、理玖の想像に過ぎない。
だが、そう考えると納得できる。
(そうなると、第二の性が記載された学生名簿は必須になる。ある程度、踏み込んだ個人情報の閲覧権限も必要になるから、折笠先生の関与は絶対だ)
顧問である折笠が関わっているとなると、納得できてしまう内容だ。
理玖に散々、愛人になれと声を掛けてくる折笠は、既に複数名の愛人を抱えている。
折笠の性欲の強さと若い男好き、特にonly好きは理研の頃から有名だった。
「白石君がonlyだから、四人でかくれんぼサークルに入ったんだね。GWのかくれんぼには参加した? いや、その前に、普段は具体的に、どんな活動しているサークルなのかな?」
晴翔が逸る気持ちを抑えて、質問を変えた。
「普段は、サークル員で集まって話したり、飲みがほとんどだよ。四月は、GWのかくれんぼの準備をしてた。何となく皆、相性のいいWOを探しに来てるって感じた。GWのかくれんぼは先輩たちがメインで準備してくれてて、一年生には鈴木先輩からチャットに連絡が来ました」
真野が自分のスマホを取り出すと、かくれんぼサークルのグループチャットを開いた。
差し出されたスマホを、理玖と晴翔は覗き込んだ。
『
仮に、深津祐里と白石凌がターゲットで、二人の発情を試すために頓服の抑制剤が盗まれたのだとしたら。二人をかくれんぼサークルに勧誘するための確認だったのかもしれない。 フェロモンに左右されないnormalでWOに慣れている真野祥太が近くにいて助け舟を出したのは、かくれんぼサークルからしたら迷惑な偶然だったろう。(出会いが目的のWOお見合いサークルで、感度が良いonlyを勧誘するなら、セフレ探しが主になるのかな。有体にいえば性交メインのサークルかもしれない) とはいえ、今の時点では真野の言葉だけを繋ぎ合わせただけの、理玖の想像に過ぎない。 だが、そう考えると納得できる。(そうなると、第二の性が記載された学生名簿は必須になる。ある程度、踏み込んだ個人情報の閲覧権限も必要になるから、折笠先生の関与は絶対だ) 顧問である折笠が関わっているとなると、納得できてしまう内容だ。 理玖に散々、愛人になれと声を掛けてくる折笠は、既に複数名の愛人を抱えている。 折笠の性欲の強さと若い男好き、特にonly好きは理研の頃から有名だった。「白石君がonlyだから、四人でかくれんぼサークルに入ったんだね。GWのかくれんぼには参加した? いや、その前に、普段は具体的に、どんな活動しているサークルなのかな?」 晴翔が逸る気持ちを抑えて、質問を変えた。「普段は、サークル員で集まって話したり、飲みがほとんどだよ。四月は、GWのかくれんぼの準備をしてた。何となく皆、相性のいいWOを探しに来てるって感じた。GWのかくれんぼは先輩たちがメインで準備してくれてて、一年生には鈴木先輩からチャットに連絡が来ました」 真野が自分のスマホを取り出すと、かくれんぼサークルのグループチャットを開いた。 差し出されたスマホを、理玖と晴翔は覗き込んだ。『
「洗脳……。連れていかれるって、どこに? そもそも、かくれんぼサークルは、かくれんぼをするサークルじゃないのか?」 晴翔の驚きが混じった問いかけに真野が俯いた。「かくれんぼサークルは、かくれんぼもするけど、実際は、合コンメイン、みたいな集まりで。WOのための出会いの場みたいな、サークルなんです」 真野がぽつりぽつりと話し始めた。「公にしないのは、第二の性を隠したがってる人が多いのも、あるけど。ヤリ目OKでセフレを探している奴とかもいるから、らしくて」 真野が言いづらそうに話す。 その辺りまでなら、理玖的には許容範囲だと思う。 WOのフェロモンが薬より性交で安定するのは、講義でも話した。生態を理解してセフレになってくれる相手がいるなら、助かるのも事実だ。(onlyとotherだけじゃなく、normalも受け入れているのは、そういう訳か) フェロモンを安定させるためだけの性交なら、相手はnormalでも問題ない。 あれだけonlyとotherが多く在籍しているサークルだ。真野の話は意外でもない。「けど、かくれんぼサークルは表向きにはWOについて、何も触れていないだろ。入ってから知ったの? そもそも、かくれんぼサークルには、何をきっかけに入ったんだ?」 晴翔の顔を見上げた真野が、ぐっと口を噤んだ。 何かに怯えているような顔だ。「この場で君に聞いた話を、僕たちは誰にも話さない。真野君の名前も漏らさない。だから、安心して話していいよ」 理玖の言葉に晴翔が頷いて、真野を見詰める。 サークルの内部事情や紹介元は、恐らく口止めされているんだろう。これだけ秘密を堅持しているサークルなら、頷ける。 真野が戸惑い
研究室の扉の向こうで、誰かが言い合いをしている気配がした。 晴翔の真似をして、理玖もドアに耳を押し当てる。「俺はただ、事務の空咲さんに用事があって来ただけで」「向井先生の研究室は関係者以外、立ち入り禁止だ。事務員なら他にもいるだろう」「空咲さんに話があんだよ。この大学の学生なんだから、講師の部屋に入ったって問題ありませんよね」 どうやら学生と誰かが話をしているようだ。 学生の声は、苛立っているようにも焦っているようにも感じる。「俺に用がある学生みたいですね。もう一人は、警備員さんかな」 理玖の研究室がある二階は警備員が増員されて、常に二人が巡回している。 学生が扉をノックした時点で警備員が止めたのだろう。「まぁまぁ、國好さん。部屋に来ただけなのに、怖い顔で睨んだら可哀想っすよ。君、何年生? 学部と名前は? 空咲さんに何の用事?」 別の警備員がフランクな調子で話し掛けている。 先ほどの警備員ほど警戒を顕わにしていない感じだ。「文学部一年の真野祥太です。相談に来ただけですよ。もう入っていいですか?」 学生が素直に答えている。「國好さんと、真野君?」 呟いた晴翔がドアのカギに手を掛けた。「知り合い?」 理玖の問いかけに、晴翔が頷いた。「國好さんは時々、夜間警備で一緒になる警備員さんです。真野君はバスケ部の学生で、かくれんぼサークルにも名前がありました。俺が当たろうと思ってた学生です」 そういえば、警備の数が足りなくて男性事務が夜間警備に駆り出される話を前に晴翔から聞
探すといっても、素人が行方不明の人間の捜索をするには限界がある。 一先ず、かくれんぼサークルについて調べてみようという話になった。 次の日の午後から時間を見付けて、情報収集を始めてみたのだが。「やっぱり、今以上の情報は出てきませんね」 PCを確認しながら、晴翔が呟いた。 今日の午前中の講義にも積木の姿がなかった。理玖の中に小さな焦りが湧いた。「慶愛大学の中だけの活動で、他校との交流もなさそうだから、ソースが少ないね」 同じようにPCに目を向けたまま、理玖も応えた。 思いつく範囲で検索を掛けてみたものの、具体的な内容がヒットしたのは学内向けのサイトだった。 慶愛大学のHPには、サークル一覧に紹介文が載っているが『本気でかくれんぼをするサークル』としか書かれていない。 学内用のサークル紹介も似たような説明だが、気になる内容が記載されていた。『紹介以外の入部は受け付けません。入りたい人は鬼になったつもりで隠れているサークル員を探しましょう。かくれんぼは、もう始まっている』 それだけなら、かくれんぼサークルらしい勧誘の煽り文句に思えるが。『隠れた花や蝶と出会いたい人は、是非入部してください。顧問は折笠悟准教授です』 知っている人間ならWOを想起する文章に取れなくもない。 折笠は内分泌内科でWO研究をする、理玖と同列の学者だ。「大学に提出されているサークル出願にも、かくれんぼをするサークルと書かれているだけだし、同じ内容で認可されています。あと確認するなら、学生用の掲示板かな」「学生用の、掲示板?」 晴翔がPC画面を開いて理玖に見せた。&n
「でも、だけど……、もしWO関係の犯罪だったら」 only狩りや、世間で話題のDoll関連だったりしたら。 rulerのservant契約が何処まで事実か知れない。 だが、Dollはotherを使ってonlyを誘拐し、性玩具に躾るとの噂だ。(servantや性玩具の躾は眉唾だったとしても、otherのフェロモンを煽ってonlyを襲わせるのは可能だ。数日、阻害薬や抑制剤を飲ませないで薬を抜けば、敏感にフェロモンを感知するotherにできる) 更にother用の興奮剤で煽れば、tripする率も上がる。tripさせて更に煽れば簡単にonlyを襲う獣が完成する。 積木大和が誘導されてonlyを犯せば、その罪が問われるのは実際に手を出した積木だ。 誘導した人間がいたとしても、幇助罪止まりだろう。最も重い実刑を積木が受けるのは避けられない。(あんなに熱心に勉強して、WO専攻で頑張るって言っていた積木君が、自分の意志に反して犯罪者になるかもしれない) 理玖は自分の手を、ぎゅっと握った。「大学に……、警察に、動いてもらうには、どうしたら……」 今の時点では、事件性はないかもしれない。(折笠先生の所には佐藤がいる。それだけでも充分、危険だ) 佐藤が犯罪組織と繋がっているかもしれないと懸念して覆面警察が入る噂まで立った。実際、警察官が潜入しているかは知らないが、日中の警備員の数は増している。(僕の事件だってあったんだ。大学はもっと警戒するべきだ。何かあってからでは、遅いのに) しかし、何か起こってからでなければ動けないのが警察だ。 日常では感じない、法治国家の弊害に苛々する。 だからこそ、大学が手段を講じてくれ
「GW明けに講義を無断欠席している学生の所在確認をするように事務に通達があったんです。去年も同じ仕事はあって、友達の家や恋人の家に泊まってた、みたいな話で終わったんですけど」 ありがちな話だなと思う。 大学生になって一人暮らしをしている友人や恋人の家に入り浸る学生は、それなりにいそうだ。羽目を外した学生がやらかしそうな失敗ではある。「どうしても三人だけ、連絡が取れない学生がいて、未だに連絡が取れないんですけど。調べたら三人とも同じ、かくれんぼサークルに所属していて」「かくれんぼサークル?」 思わず聞き返してしまった。「って、何をするの?」「名前の通り、かくれんぼをするそうです。時間を決めて隠れるらしいんですが、長期だと一日とか、もっと長いと三日とかで時間設定する長期かくれんぼがあるらしいです」「三日も隠れるの? 辛くないの?」 三日も同じ場所から出ないとなると、もはや籠城だ。 トイレや食事はどうするんだろうと心配になる。「基本は、鬼に見付からなければいいので、移動は自由だそうです。隠れている間にどこで何をしていても良いらしいけど、決まった敷地からは出てはいけならしいです」「鬼ごっこみたいなかくれんぼだね。長期戦は辛そう」 子供の頃に遊んだかくれんぼとは違うのだなと思う。 大人の遊びに進化しているのだろうか。「その辛い長期戦が、GW中に行われたようなんです。場所は大学の構内、連絡が取れない三人も参加しています」 ぞわっと背筋に寒気が走った。 かくれんぼをしていた子供がいなくなるなんて、神隠しみたいで怖い。「部長の学生は全員いるのを確認して帰宅したと言っているんですが、サークルの他の子に聞いても覚えていな